東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が女性蔑視発言の責任を取って辞任した。問題となったのは「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などといった発言だ。当初日本オリンピック委員会(JOC)や政府内では問題の重要性を軽視していたようだが、メディアでの取り上げられ方やスポンサー企業からの「遺憾」コメント、SNS(交流サイト)上での批判などが相次ぎ、次第にこのままではまずいというムードが広がっていった。
スポンサー企業、不買運動など懸念
スポンサー企業からは、グローバル企業であるP&Gを皮切りに、影響力ある企業からの批判が相次いだ。P&Gは2010年バンクーバー五輪からオフィシャルスポンサーとして"Thank you, Mom"キャンペーンを継続的に行い、国際女性デーには"We See Equal"キャンペーンを行うなど、女性のエンパワーメントやジェンダー平等を強く打ち出してきている企業である。トヨタ自動車の豊田章男社長は「トヨタが大切にしてきた価値観とは異なり、誠に遺憾」とのコメントを出した。
近年、これまでは声を上げられなかった一般生活者がSNSで主体的に発信できる状況になっているということもあって、ジェンダー関連での炎上が増えている。今回の件は、海外では不買運動にまで広がることもあるこうした炎上に対してスポンサー企業が配慮した結果だろう。つまり消費者・生活者の声が大きな組織のあり方に影響を与えたということができる。
炎上させてしまう側、つまりマジョリティー側は当然悪意は持っていないわけで「何が問題なのかわからない」と言ってしまう人も多いが、それはマジョリティーの側だから見えないのだということの自覚が必要だ。マジョリティー側にいる人間は、ついついしてしまっているこれまでの先入観をあえて打ち破って行かないと時代に乗り遅れてしまう。
英、ステレオタイプのジェンダーに広告規制
英国広告基準局(ASA)が2019年からスタートさせた広告規制は、身体化されてしまっている差別意識を今こそ断ち切るという覚悟のもとで始まっている。ASAが規制しているのは下記のジェンダーステレオタイプだ。
1.役割:特定の性別から連想される職業やポジション
2.性格:特定の性別から連想される特徴や行動
3.からかい:ステレオタイプに合致しない人のふるまいや見た目をからかう
4.性的対象:性的な対象として人を描き出す
5."モノ"化:体や体の一部にフォーカスして描く
6.ボディイメージ:不健康な体型で描く
4や5は比較的わかりやすいが(とはいえ最近、日本のタイツブランドが炎上してしまったが)、女性は繊細であり男性は冒険心がある、男性はオムツ替えが下手、女性は運転が苦手、女性がメイクをしていて仕事に遅れる、家事をしている男性をばかにする、水着が着られるようにダイエットしなきゃ……など、これらは今、イギリスでは悪質なステレオタイプと考えられ、広告では流せなくなった。日本には規制はないが、こうしたステレオタイプを描くことは今の、そして未来の世界のためにならないし、知らず知らずの間に人を傷つけることにもなるという自覚を持って、気がつかないうちにこうしたステレオタイプを語ってしまっていないか、企業も個人も気をつけていくことが必要だ。