R3は2014年にニューヨークで創業。翌年には42の金融機関などからなるコンソーシアムを結成し、新たなブロックチェーン基盤の開発を開始、2016年にCorda(コルダ)を公開した。現在、350以上の官民のメンバーがCordaの開発ネットワークに参加している。日本では、SBIホールディングスとの合弁会社、SBI R3 JAPANが事業を展開している。Cordaを開発・運用するR3のデービッド・ラッター最高経営責任者(CEO)に同社のブロックチェーン技術の特徴と可能性を聞いた。
――なぜ、ブロックチェーンが今必要なのですか。
「新型コロナウイルスのパンデミックは、世界各国に予想以上の混乱をもたらしています。全産業分野にわたり市場機能がまひし、事業活動が低迷しています。企業はパンデミック収束後に備えて『ニューノーマル(新常態)』とも言える態勢に入りつつあります。ポスト・コロナの世界で活力を維持するためには、かつてない対応力が求められます。ブロックチェーンは従来の産業活動に伴う無駄や物理的接触などの非効率さを省き、新時代を切り開く技術です」
――ブロックチェーンの導入によってどんな問題が解消・緩和されますか。
「社会のネットワーク化が進むなか、データをやり取りする人や機械が増えるとともに、デジタルインフラ内では多くの問題が生じます。取引相手同士がデータの台帳を共有していないため、取引が複雑になり、非効率なうえに人的ミス、不正も起こりやすくなります。また、取引の多くが従来通り書面をベースにしたやり取りで行われ、そのデータもそれぞれが保管するので、取引の仲介役に問題が起きた場合には業務の遂行が遅れたり、損失が発生したりすることもあります」
「ブロックチェーンはこれらの問題を解決・防止します。また、台帳を共有することにより、取引相手同士が仲介者に頼ることなく契約を締結するので、書類が激減します。ブロックチェーンの導入によって、データ保管における仲介機能が省略されるので、オンライン上での攻撃も防ぐことができます。R3のCordaに代表される許可制ブロックチェーンでは企業同士が直接、非公開で取引を行います。情報交換は必要に応じて行われ、秘密情報へのアクセスは厳格な認証によって保護されます」
――R3の強みは何ですか。
「Cordaは、こうした問題の解決に加え、従来のブロックチェーン基盤にあったいくつもの制約を解消することもできます。誰でも参加可能な非許可制ブロックチェーンでは、全てのデータが全員によって保管されるため、プライバシー保護、拡張性、互換性などの点で問題があり、グローバルなビジネス展開にふさわしいものとはいえなかったのです。R3は従来の非許可制ブロックチェーンの問題の解決を目指して、オープンソースのブロックチェーン基盤となるCordaを開発しました。Cordaの設計・構築に当たり、2000人以上の専門家に参画してもらいました。Cordaは事業における実用性を設計の段階から重視した、初めてのブロックチェーン基盤といえるのです」
「もちろん、導入のしやすさや導入コストの低減化、レジリエンス(システムの復旧・回復力)にも重点を置いています。これまでのシステムは、コストも時間もかかり、全面的な改修といったオーバーホールが難しい場合があります。ましてやコロナ禍の事業環境では、大がかりなシステム更新を手がけるのが困難であることは言うまでもありません。しかし、未来に向けて新たな成長を目指す企業にとっては、ブロックチェーンは必要不可欠な技術です。我々はCordaを開発するに当たり、ユーザーにとっての導入しやすさを優先的に考慮しました。Cordaは既存のシステムと組み合わせた形での活用も可能です。また、Corda上で構築されたアプリケーションであるCordappsは世界で最も広く使われているプログラミング言語、Javaを使用しています」