目の健康守る

「見えにくい」は認知症のリスク 目の変調は対応早く

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■視機能が良くなると睡眠も改善

白内障手術で抑うつや認知機能が改善されたメカニズムについて、「しっかり見えることによるメリットが大きい」と大鹿教授。物がよく見えないと、周囲が安全かどうかがわからず、動作が鈍く、遅くなる。相手の顔や対象物が見えないので消極的になり、引きこもるリスクも高い。「反対に、周囲がよく見えるようになると、動作も素早くなり、積極的な行動が可能になる。実際に、視力低下により寝たきりのような生活をしていた人が白内障手術を受けると元気に出歩き始め、身なりにかまわなかった方がきれいに化粧をするようになる、という変化は臨床事例でも多く見られる」(大鹿教授)

大鹿教授は水晶体の濁りが改善されることによって体内時計が正しく働くようになる、というメカニズムにも着目する。大鹿教授は「体内時計は光が網膜に届くことでリセットされるが、白内障によって水晶体が混濁すると光の透過率が下がり、網膜が光を受け取る量が減る。すると、光刺激によって分泌される睡眠ホルモンのメラトニンが正常に分泌されず、体内時計の乱れ、睡眠の質の悪化、さらには抑うつや認知機能低下につながっていくのではないかと考えている」と語る。

国内の1037人(平均年齢71.9歳)を対象にした研究でも、白内障手術を受けたグループは白内障手術を受けなかったグループよりも睡眠の質が良く、睡眠中の覚醒時間が短かったと報告されている。[注5]

白内障手術は認知機能改善に効果的だが、アルツハイマー病や脳血管疾患による認知症などの発症後に白内障の手術をしても効果は期待できないという。大鹿教授は「しかし、認知症の予備軍といわれる軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment)の段階であれば認知機能が回復する可能性もある」と指摘する。

「私たちは普段あまり意識していないが、目から入る情報は五感で得る情報の約80%を占めると言われるほど多い。その情報量が大きく減ることが認知機能に何らかの影響をもたらすのは当然ともいえる。視機能が低下する病気は、白内障以外にも、緑内障や加齢黄斑変性などがあり、患者数が増加している。老年期に視力を維持していくためには、なによりも早期発見が重要」と大鹿教授は強調する。

白内障は以下の症状が早期発見の目安になるという。

●白内障の早期発見ポイント
□まぶしく感じる
□目がかすむ
□暗い場所で見づらい
□物が二重に見える
□階段の段差が見えづらい
□靴下のペアを間違える(モノのコントラストが見えづらくなるため)

「緑内障や加齢黄斑変性による視野障害は自分で気づくのは難しいので、45歳を過ぎたら1度は眼科検診を。何もなければ5年後に再度、検診を受けてほしい」(大鹿教授)

なお、IT機器の長時間利用などに伴って現代人で急増しているドライアイとメンタルの関係も注目されている。

目に不快感やかすみがあるといったドライアイ症状のある患者40人を対象にした研究では、ドライアイの自覚症状とうつ病、不安スコアに正の相関があった。[注6]

ドライアイは点眼薬でも改善する。(「コンタクトやITによるドライアイ 点眼薬で角膜守る」参照)

見えにくい状態を放置せず、早めに対処することが、認知機能や心の状態を守ることにもつながるといえそうだ。

[注5]J Epidemiol. 2015;25(8):529-35.

[注6]Transl Vis Sci Technol. 2018 Dec 28;7(6):35.

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