ブランド価値経営とは、ブランド価値向上を目的とした経営を指す。前回「マーケティング中核のH型経営」を説いた。まず、これとの関連を理解していただきたい。
■企業価値の8割も
かつては、ブランドはマーケティングの一部分であった。ネーミングやロゴはマーケティングの要素であり、認知やイメージなどはマーケティング活動の結果と捉えられていた。それが1980年代のM&Aブームで、無形資産価値が有形資産価値をはるかに上回ったことで大きな注目を浴びることになった。たとえば、スイスのネスレが英国のラウントリーを買収した時、無形資産割合は83%であったと言われている。ラウントリーは、アフターエイトやキットカットなどの強力なチョコレート・ブランドを有していた。また英国のグランド・メトロポリタンが米国のピルズベリーを買収した時も、その無形資産割合は85%であった。ピルズベリーもまた、オールド・エル・パソやトチノズなどのブランドを有していた。このような無形資産(ブランド)の意義に注目し、それを学術的にまとめたのがデイビッド・アーカーである。
これ以降、ブランドがマーケティングの上位概念に位置付けられた。ブランド価値向上が経営の目的であり、それを達成する手段がマーケティング(≒経営)である。もちろん、差別化された製品の開発や高品質な製品を効率よく製造する工場運営などはブランド価値向上に必要不可欠であるが、「誰に、何を、どのように」ということが一貫していなければ、それらも宝の持ち腐れになる。ブランド価値向上は経営の目的であると同時に、経営の結果でもある。前回述べたような、マーケティングを中核に置いたH型経営を実践することによってブランド価値は向上する。
ブランド価値はどのように測定するのか。ブランド価値は買収の際、適切な買収価格を設定するのに不可欠なものになったので、多くのブランド・コンサルティング企業がブランド価値測定に取り組んでいる。代表的なものに、インターブランド社やミルウォードブラウン社、ブランドファイナンス社などがある。それぞれ計算式が異なるので、同じ企業でも測定するコンサルティング企業によってブランド価値が大きく異なる。どれを信用するかは投資家の判断であるが、我々はその趨勢を知ればよい。3社の中でも代表的なインターブランド社のグローバルブランド・ランキングの推移を表で示す。ただし、このランキングは「海外売上高30%以上」の企業が対象となっていることに注意が必要である。日本企業は、ベスト100社の中にわずか7社しかランクインしていない。
Interbrand グローバルブランド・ランキング2018(100$Mil.)
ブランド価値経営に対比される経営スタイルは、売上高志向経営やシェア志向経営、利益最大化経営、キャッシュフロー最大化経営などであろう。日本企業はかつて売上高志向経営にまい進し、1980年代までは大成功を収めた。それによって欧米先進企業に追いつくことはできたが、その根源である「低価格の割には高品質」という強みは今や途上国企業に追い上げられている。かといって「高価格・高品質」という製品ラインは伝統的欧米企業に押さえられており、日本企業はサンドイッチのハムのように上下に挟まれたコモディティ化製品供給企業になっている。そこで、現在、「グローバル・スタンダードである売上高営業利益率(ROS)10%」を目指して利益最大化経営にまい進しているが、一部の企業を除き、なかなか達成できていない。ここに至って、「世界市場におけるブランド力のなさ」を痛感している日本企業は多い。いや「痛感」しているならまだしも、「良い製品を作っているのに高い価格で買ってくれないのは消費者(顧客)が理解していないからだ」と不満をぶちまける経営者が多い。