5GはC/U分離を行うことにより、多様な通信が混在する場合に、ネットワーク全体の混み具合を考慮した上で、最適なリソース配分をしやすくなります。このとき、通信の種類ごとにネットワークの層を仮想的に「薄切り」にして個別の層にするという、「ネットワークスライシング」という技術がありますが、これも5Gでは実装しやすくなります。
C/U分離およびネットワークスライシングは無線区間の技術革新ではないため、あまり話題にのぼりません。しかし、ネットワーク設計の「柔軟性」を高める技術革新であり、5Gの産業活用を考える際の前提知識として頭に入れておく必要があります。
多数同時接続を実現するための技術
最後に、「(3)多数同時接続」です。これはひとつの基地局に大量の端末を収容できるということを意味しています。
4Gでは、ひとつの基地局に100台程度の端末が同時にアクセスすると輻ふく輳そうする(接続できなくなる)ということもありました。5Gではこれを100倍にし、1万台程度の端末が同時にアクセスしてもきちんと接続できるようになっています。
これは一般消費者のスマートフォン利用を想定しているというよりは、あらゆる場所にセンサーが埋め込まれ、通信によってデータが収集されるIoT時代(Internet of Things:あらゆるモノがインターネットにつながる時代)を見据えた要件といえるでしょう。
多数同時接続は現在も標準化作業が進められている最中ですが、ここでは日本が提案する「グラント・フリー(Grant Free)」と呼ばれる方式を紹介します。この方式は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が提案する方式で、端末と基地局での間の制御系の通信をシンプルにして輻輳(ふくそう)を回避する、というものです。
通常、端末と基地局の間で通信を開始する場合、利用する電波の周波数や利用する時間を、端末と基地局の間でやり取りをして、基地局が事前許可(Grant)を発行します。グラント・フリー方式はその事前許可のやり取りを省略して、最初からデータを送ってしまうという方式です。送信に失敗してデータに欠損が発生してしまうリスクが大きくなってしまいますが、その場合の再送信の仕組みも含めて設計されています。
バスで人を輸送する例でいえば、これまでの通信は、確実に乗客を目的地に届けるために、バスに乗る前に運転手が乗客とコミュニケーションを重ねて、それからバスに乗せていた、というイメージです。これでは乗客が膨大に増えた場合に、運転手はパンクしてしまいます。ですから、コミュニケーションはほどほどに、とにかくバスに乗せてしまう、というやり方によって、より多くの乗客をさばけるようにした、というイメージです。
4Gまでの通信では、たとえば見たい動画の「開始」のボタンをクリックして、ダウンロードあるいはストリーミングで閲覧するというような、ダウンロード中心の利用スタイルに合わせた設計となっていました。
これからのIoT時代は、大量のセンサーから発生する、膨大かつ小さなデータがアップロードされるようになります。その際のアップロードの輻輳を回避する設計として、グラント・フリー方式のような多数同時接続技術が必須となるのです。
(つづく)
野村総合研究所 ICTメディア・サービス産業コンサルティング部 テレコム・メディアグループマネージャー。東京大学大学院工学系研究科卒業後、2005年野村総合研究所入社。現在は情報通信業界における経営管理、事業戦略・技術戦略の立案、および中央官庁の制度設計支援に従事。
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