社会的課題をビジネスで解決するソーシャルビジネス。優れた取り組みを表彰する「第2回日経ソーシャルビジネスコンテスト」は、大賞に株式会社miup(ミュープ、東京・文京)、優秀賞に一般社団法人RAC(ラック、同・板橋)と株式会社おてつたび(同・渋谷)を選出。3月2日の表彰式ではソーシャルビジネスの現状と課題について2つの討論会を開いた。
横田氏 貧困の撲滅など国連が策定する持続可能な開発目標(SDGs)が大きなムーブメントになっている。政府として企業を後押しする政策や目標はあるか。
甲木氏 スタートアップや中小企業への支援が重要だ。日本の地方は、欧州では一つの国に相当するほどの資源と歴史、独自性を持つ。政府が十分な資源とインセンティブを与えることで、各地で多くのビジネスを展開できる。地域の特性に応じたかたちで実現可能な、地域の活性化につながる支援に力をいれたい。
横田氏 地域の特性を生かしたSDGsの普及が重要だと実感している。環境・社会・企業統治に配慮した経営を評価する「ESG投資」もより重要さを増している。投資家の立場としての荻野さんのお考えは。
荻野氏「社会貢献が投資呼び込み」
荻野氏 個人投資家の視点から、ある成功体験がある。10年ほど前、大和証券は国内で初めてワクチン債を販売した。予防接種を受けられない発展途上国の子供たちにワクチンを配るという具体的な投資の成果が、「社会貢献に直結している」と投資家の皆さんから好評だった。従来は投資に見向きもしなかった新しい層の人たちが投資の世界に入ってきた。
投資を通じて社会貢献をしたいという人は潜在的にはかなりいると思っている。そういった投資家を発掘するのが我々の使命だ。今回のコンテストのように、社会課題を起点にビジネスを考える起業家を支援する活動が非常に重要だ。大和証券グループでは、地域経済の活性化につながるようなベンチャー支援ファンドを100億円規模で設立し、地方創生に貢献している。
横田氏 財務情報の適切な取り扱いも重要だ。SDGsであげている利益がどんな事業の結果なのか具体的に伝えなくてはならない。日本企業はESGのうち、E(環境)とG(企業統治)は比較的できていると思うが、S(社会)はなかなか難しい。更家社長に企業と社会の関係についての考えをお聞きしたい。
更家氏「ビジネス発展 会計が重要」
更家氏 企業も結局は社会の上に成り立っている。ソーシャルという意味をどう考えるかが重要。ときどき若い方が「投資をしてほしい」と私に会いに来るが、プロトコルが大事。少なくとも、「どんな目的で、何をするか」「収益はどのくらいか」「投資にどんなリターンがあるか」ということをしっかりと考えなくてはいけない。
開示した会計が、誰にも後ろ指をさされないことが必須条件。企業経営は単に「やりたい」ではダメ。大企業もソーシャルビジネスも、会計をしっかりと考えるとビジネスとして発展する。経済とは利益をあげる行為を指すが、従業員と株主の生活、従業員の働き方改革と全てに関係している。
横田氏 今回のコンテストの応募者は、前回に比べて実際に起業して取り組む人が多かった。こういった方々への助言はあるか。また、今後の課題をどう考えるか。
甲木氏「政府、自由な金の流れ促す」
甲木氏 世界的に見ても日本は熱心で「SDGs偏差値」が高い。大企業も適切な取り組みに温かい目を向けている。更家社長もおっしゃったように最低限のプロトコルを守ることが重要だ。プロトコルに沿った取り組みは伸びていくと考えている。
政府としては企業セクターの自由なお金の流れを後押ししたい。国内のソーシャルビジネスが大いに盛り上がり、その中から未来の革新的なビジネスが一つでも多く生まれることを願ってやまない。
甲木浩太郎氏(かつき・こうたろう) 1994年、外務省入省。経済局南東アジア経済連携協定交渉室長などを歴任。2017年から現職。
荻野明彦氏(おぎの・あきひこ) 1989年、大和証券株式会社入社。大和証券グループ本社経営企画部長などを歴任、2017年から現職。
更家悠介氏(さらや・ゆうすけ) 1976年サラヤ入社。日本青年会議所会頭や関西経済同友会常任幹事などを歴任。98年にサラヤ社長に就任。