日本的デジタル化の落とし穴

AIの進化が求める人との新たな役割分担とは? 第5回 音楽家・大山平一郎、Takram・櫻井稔、アクセンチュア・保科学世、畦地直樹の4氏による座談会

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保科 ヨーロッパと中国のAIや機械に対する態度の差は、まさに文化の違いだと思います。歴史的背景の違いや、体制の違いがヨーロッパと中国の差を生んでいるのでしょう。文化は人から人へ連綿と受け継がれていくもので、クラシック音楽ではそれを強く感じます。

大山 音楽だけでなく、すべてのアートは、先代が創ったりやってきたりしたことを次の世代が受け継いでいくことで続いています。しかしあるものを伝えるだけではいずれ衰退します。アートが発展するのは受け継いだものの上に何か新しいものを追加しているからで、そこにみんなが価値を感じて、文化や伝統になっていくわけです。

保科そうやって受け継いできたところも含めて、例えばバロック音楽だったら400年続いているという文脈やストーリーに大きな価値があると思います。それらがAIでどこまで実現できるのかが、人とAIの役割分担を決める1つのポイントなのでしょう。我々も提案に際してはストーリーを大事にしており、ストーリーを語れるかどうかで人とAIの価値に差が出ると実は日々感じています。

大山 一方、人はすばらしい巨匠の絵画を見て感動するだけでなく、アフリカの原住民のオブジェを見て感動することができます。そのオブジェについて伝承されたストーリーを知っているわけではないのですが、難しいことは抜きに直観するのです。感覚によってものごとの善し悪しを「感じる」こともAIにはできないのではないでしょうか?

感性に訴える・直観を得ることはAIにはできない

保科 おっしゃるとおりで、ストーリーの創出もさることながら、人の感性に訴えたり直観を得たりすること、五感を駆使したりするといった身体性が重要になることは、AIにはまだまだ難しいでしょう。

櫻井 身体性は非常に重要なキーワードだと考えています。善し悪しを「感じる」ことも、アートに「感動」することも、基本的には人間の身体を伴うからこその価値観であるといえます。羽生善治さんがAIが持ちえない「美意識」について興味深いことを語っていました。棋士は「直観」「読み」「大局観」のプロセスで将棋を打つそうなのですが、「直観」をひもとくと「美意識」になり、さらに深掘りすると防衛本能や生存本能に由来する「安心・安定」につながるのを感じるそうです。その羽生さんがAIと将棋で勝負したときに感じたのは、「怖いもの知らず」といった印象でした。身体性を全く持っていないAIは、人が安心・安定をベースに作った棋譜から外れていき、これまでなかった棋譜、新たな定石ができる。だから人はAIに勝てなかった。一方で、AIとの対戦から学ぶことで強くなった藤井聡太さんのような棋士もいます。人間ならではの「美意識」によって逆に狭められてしまった可能性が、AIによって広がることもあるのではないでしょうか。

大山 技術的な優位性だけを追求することはAI将棋としては認められるのかもしれませんが、私のいる芸術の世界では、「品位」という観点からあり得ません。本当に最近の若手は技術的にすごい演奏をしますが、それだけで芸術と言えるのでしょうか?お客様は、芸術を鑑賞したいと思って来場します。演奏は人様の前に出す自分の表現であり、芸術性は究極的には「人柄」「品位」に行き着きます。そこを私は強調したい。

畦地 企業のAI投資においても慎重に判断すべき部分があります。お客様の電話を受けるコールセンターは企業が大型投資を行う領域で、米国ではAIを活用して自動音声で応答しようとする動きが出ています。人がAIだと気づかない自然な会話も可能になっていますが、お客様がコールセンターに電話をしたときの背景も含めて適用を判断すべきです。例えば、自分が知りたい問いを返してくれるだけではなくて、サービスに対する不満やクレームを伝えたいときがありますが、そこまでAIに対応させると消費者にとっての企業価値は下がるでしょう。今後、AIを活用する企業においても大山先生のおっしゃる、「人柄」「品位」に相当する「消費者に対する企業倫理の考え方」が、企業価値を形作って行くと考えます。

保科 単に商品を購入したい、予約をしたいといった用途なら、AIによる対応でもよいでしょうが、特別な日にお店を予約するときには、お店のホスピタリティーを確認したり、こちらの思いを言葉で伝えたりするという意味でも、人間を相手に電話で予約したいですね。

チェスで人間がコンピューターに破れた後、コンピューターと人の共同作業(ハイブリッド)がコンピューターを再び打ち破ったということも知っておきたいと思います。それはAIに人が使われるのではなくて、AIが出した判定を人が受け止めて人がどう使っていくのかを考えるようにすることです。AIを企業に導入する場合も、AIと人の共同作業が重要であることがいろいろな調査で明らかになっています。例えば、カスタマーサービスを人だけで業務を行った場合、AI・機械だけでやった場合、両方を組み合わせた場合でそれぞれの顧客満足度を調べると、組み合わせた場合の顧客満足度が一番高くなります。医療のがんの画像診断においても同様で、AIによる診断と人の判断を組み合わせた場合が判定の精度が高いという結果です。

AIの発展は続いていますので人との役割分担のあり方はこれからますます重要なテーマになるでしょう。お互いが得意なところをきちんと認識した上で、人がAIの処理結果をどう使うかを判断することが一番重要であり、AIが出す結果を受け止めるのが人なのかどうかが問われると思います。さらに人が受け止める場合も、AIとして結果を伝えていくのか、人として結果を伝えていくのかで、企業のサービスの価値が問われていく時代になってきたと思います。

みなさま、今日はどうもありがとうございました。

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、プレーヤー、イノベーション、AI、ICT

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