日本経済新聞社がアグリテック(農業とテクノロジーの融合)をテーマに開催したイベント「AG/SUM(アグサム)アグリテック・サミット」(6月11~13日)に関連し、参加企業・団体のキーパーソンに注目テーマや最新動向などを聞いた。生産者と需要家を結ぶプラットフォーム「SEND」(センド)を展開するスタートアップのプラネット・テーブル(東京・渋谷)創業者で社長の菊池紳氏は、農業に関わる流通、金融、人材の戦略を強化していくとともに、農家・生産者のためのアグリテックを積極的にアプローチし、活用していくと強調する。
「生鮮物流」「農業ファイナンス」「農業人材確保」が課題
――2015年にスタートした「SEND」の仕組みを教えてください。
SENDは産地と都市をつなぎ、持続的な農業と流通を支える、農畜水産物における流通・物流のプラットフォームです。既存の農産物の流通規格や量に縛られずに、全国の多様な食材を都心部の多様な需要家へつなぐことで、生産と消費の間にある流通の非効率さや情報の壁を解消し、持続的な食料生産を支援しています。
具体的には、需要家の飲食店の注文データやメニュー、リクエストのほか、店舗の位置情報や天候などの各種データから日々の食材の需要量を予測し、生産者に対して前もって農産物の作付けを依頼したり、出荷予約を実施したりすることで、生産者は確実に需要のある食材を栽培でき、着実に収益へ変えられます。生産から消費までのタイムラグとフードロスを極小化できます。
需要予測はとても詳細なデータを基にしています。契約するレストランなどの需要家の注文履歴や立地条件、業態、価格帯、客層、回転数、客単価、近隣の行事予定、天候などのデータを収集、分析し、次にどのような農産物を求めるのかを予測します。このシステム開発からデータ分析のアルゴリズムまですべて自社で実現しました。
このほか、生産者向けに農産物の売り上げを早期に支払う仕組みの「FarmPay」(ファームペイ)、生産者とバイヤーを結ぶ常設オンライン商談会の「seasons!」(シーズンズ)などのプラットフォームも開発・展開しています。現在の契約生産者数は5000弱ですが、4万にまでは最低増やしたいと思っています。
――14年5月のプラネット・テーブル創業後、当初の予想と違ったことはありましたか。
弊社は単なるITベンチャーではなく、生産者と需要家をロスなく持続的に結ぶ「新しい農業のインフラになる」ことを目標にしてきました。ところが、実際に事業化していると、農産物を実際に運ぶ物流面でいろいろなことに直面します。本当に効率的な配送ルートの選定や、どうしても出てしまうフードロスの克服をどうするか、現在のITでは解決できない問題があります。試行錯誤しているのが現状です。
これまでの事業展開から、これからの目標も明確になってきました。その1つは生産者の農産物を、いかに鮮度を落とさずに需要家へ届けるかという問題です。弊社は創業当初から既存の流通形態を使用しない方針でやってきました。正確な配送時間や農作物の状況を把握できないからです。そして実際に物流を手掛けると、さまざまな問題があることが分かってきました。生鮮物流にはまだまだ改善できることがたくさんあります。
2つめは、農業とカネの問題です。ファームペイという早期支払いプラットフォームを構築したのですが、それでも生産者の資金要請に満足に答えきれない場合がある。さらに農業向け金融の仕組みをみると、まだ新しい試みが十分ではないと感じます。アグリテックで農業向けファイナンスがもっと発展することを期待します。
3つめは農業に関わる人材の問題です。日本全体で人手不足の状況があり、農業の生産現場でも後継者難や働き手の確保ができないという状況がどんどん表面化しています。SENDで契約する生産者の中にも、「人手が足りないのでトマトはやめる」というところが出てきました。だから、SENDで生産応援要員を準備すればよいという単純なことではありません。生産者の地域の近くに人を見つけて派遣しても、いつかはその人が独立して生産者になった際はどうするのか。持続的に生産を続けていく農業人材派遣はどういう形がよいのか。「農業に関係したい」という人をSENDですべて取り込みたいと思っていますが、それをどう実現していくか。これから積極的に取り組んでいきたいと考えています。