日本経済新聞社がアグリテック(農業とテクノロジーの融合)をテーマに開催したイベント「AG/SUM(アグサム)アグリテック・サミット」(6月11~13日)に関連し、参加企業・団体のキーパーソンに注目テーマや最新動向などを聞いた。NTTの研究企画部門で食農プロデュース担当部長の久住嘉和氏はNTTグループの総合力を生かすと同時に、各分野のパートナーとの連携を進め、農業のデジタルビジネス化を本格化させると強調する。
全国行脚で農業の現状と課題探る
――通信最大手のNTTが農業分野に取り組んだ経緯は。
かつての電話の時代はNTTが主役でしたが、その後、インターネットやクラウドなどのICTの飛躍的な向上により、それを利用するお客様がサービスを選び、自由に組み合わせることができるようになりました。こういった変化を受け、NTTグループはICTを触媒としてとらえ、様々な分野の価値を高めていく方向に大きくかじを切りました。そこで、医療、教育などと並んで農業をNTTグループの戦略分野の1つとしてとらえ、研究企画部門のプロデューサーとしての立場で新たなビジネス創出を目指すことになりました。持ち株会社のNTT傘下には900社を超えるグループ企業があり、これまでも一部の企業が独自に農業ビジネスに取り組んでいました。グループが1つの方向に向いていく必要があると思い、そのうち30社の有志と連携して、NTTグループ一体となって農業分野に取り組むことになったわけです。
私自身は現在の部署に来るまでは、NTTコミュニケーションズで海外の通信インフラなどを担当するグローバル事業部門や、技術開発戦略を検討する部署にいました。もともとは原子力工学が専門です。その私が2014年初めに農業を担当することになって最初に決めたのが、農業の現状をこの目で見てみることでした。全国ほとんどの都道府県を訪問し、農家やJA(農業協同組合)など農業関連に従事している方々に会い、お話を聞くことでした。一口に農業と言っても生産だけではありません。農業機械、種苗、肥料、農薬などいろいろな分野があります。お会いした人数は数えきれません。
――実際に農業の現場を歩いてみて、何を感じましたか。
一口で言えば、不確実性の塊のような産業でした。天候に左右され、病害虫や鳥獣被害に悩まされます。また、栽培ノウハウは個人に蓄積され、スケールアウトしない。さらに苦労して作った農作物は契約栽培を除き、そのときにならないと売れるかどうかわかりません。これでは収入の安定化は難しいと思いました。また、我々ICT企業を含めた他産業では当たり前のように行われている、徹底的にニーズ調査を行い、サービスを創出するような、マーケットイン型のサイクルで農業生産を行うのは、一部の先進農家であると感じました。
ただし、これは負のイメージばかりではありません。ICTがお役に立てる部分がたくさんあり、「伸び代」もある。農業は長い歴史のある産業ですが、とても8兆円で終わる産業ではなく、流通、販売、消費も含めてまだまだ成長性、ポテンシャルがあると確信しています。