AG/SUM キーパーソンに聞く

スタートアップ投資で日本の農林水産業を活性化 農林中金・小畑秀樹氏

アグリテック

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日本経済新聞社が6月11~13日、アグリテック(農業とテクノロジーの融合)をテーマに東京都内で開催するイベント「AG/SUM(アグサム)アグリテック・サミット」に関連し、参加企業・団体のキーパーソンに注目テーマや最新動向などを聞いた。農林中央金庫で営業企画部部長(リサーチ・ソリューション担当)を務める小畑秀樹氏は、スタートアップ企業への投資を通じ、日本の農林水産業を活性化させたいと語る。

「食料自給率を高めなければ」という志を抱いて農林中金へ

――今の仕事に就いた経緯を聞かせてください。

農林中央金庫に入ったきっかけは、さかのぼると小学校5年生のころの経験にあります。社会科の授業で先生に「天ぷらうどんの原料がどうなっているのか調べてこよう」と宿題を出されました。うどんの原材料は小麦粉ですから、オーストラリアなど外国産。天ぷらのエビも多くは海外から輸入されていました。子供心に「ものが食べられなくなったらいやだなあ」と不安に感じた記憶があります。日本の食料自給率は当時約50%。今はさらに下がって30%台になってしまいました。

大学卒業後、「食料自給率を高めなければ」という志を抱いて農林中金に入ったのですが、長かったのはマーケット部門です。社債投資やファンド投資などを担当していた折に、2008年のリーマン・ショックが発生。翌年、初めて農業系の部署に異動しました。2011年の東日本大震災後は農地復興に携わりました。

その後、一時マーケット部門に戻った後、業務提携した世界的に食と農の分野に強いオランダの協同組合銀行ラボバンクに派遣され、同社の各地の拠点で彼らの強さの源泉を学びました。今はその経験を生かし、内外でのリサーチを通じて得た農林水産業と食品産業の中長期的な見通しや業界動向を踏まえ、私どもの基盤である農林水産業や食品産業や流通産業のお客様の課題解決の提案をおこなっています。

――アグリテックをどう見ますか。

アグリテックへの関心はリサーチの一環として始まりました。農林中金が現在、目標の一つに掲げる生産者所得の向上に役立つ可能性があるからです。農家が所得を増やすには、売り上げを増やす、資材コストを下げる、事業を効率化するという三つの切り口がありますが、このうちテクノロジーは主にコスト低減と効率化に効くのではないかとみています。

単に技術によって昨日できなかったことが今日できるようになっただけでは不十分で、それがコスト低減や効率化につながって初めて、生産者の所得向上に意味を持ってきます。そこで本当に役立つ技術を見定め、それを農業現場に普及することも私たちの仕事だと考えるようになりました。役立つ技術を持つ企業を農林中金がサポートできるのであれば、それも実行していく。アグリテックには現在、そのような姿勢で向き合っています。

農業現場の高齢化の問題もあります。担い手が年をとって体力が落ち農作業を続けられなくなる。ここでは自動化のテクノロジーが助けになります。後継者がいないことから作物を生産する技術の伝承も断絶します。匠の技をデータベース化し、いわゆる暗黙知を形式知化して、次世代につなげていく必要があります。こうした課題解決に役立つ技術が今求められており、これからどんどん出てきてほしいと思います。

一つ気がかりな点は、技術者の方と農業の現場が、物理的にだけではなく、心理的にも遠いのではないかということです。テクノロジーがどんなに優れていても、農業への理解が足りなければ、良い製品やサービスはできません。悪い意味で(自社が提供しやすい製品・サービスを市場に供給する)プロダクトアウトになってしまう。農林中金は農業現場と技術者の間をつなぐ役割を果たしていきたいと思っています。

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