「実行」や「信頼」といった現代が直面する難問をもとに、渋沢栄一や「論語」の教えを実践している経営者の方々にインタビューしました。評論家や学者といった立場からの声ではなく、生々しい現場を預かる責任者の声として、きわめて示唆に富んでいると筆者は考えます。混迷の続く時代を照らすヒントとして、本連載を活用して頂ければ幸いです。
第5回目の今回は、スクウェア エニックス・ホールディングスの前社長である和田洋一さんにお話を伺いました。
なお、本文に登場する人物の年齢や肩書き、数値データなどは原則としてインタビュー当時のものですが、プロフィールは2013年6月現在の情報を表記しています。
論語 渋沢派
守屋 以前、和田さんと一緒に『論語と算盤』の読書会に参加させて頂きました。参加されていた経営者の方は、素晴らしい方々ばかりだったのですが、その中でも和田さんはご見識に溢れていました。こんなに頭のいい人が世の中にいるのだなと、私自身ショックを受け、勝手に師匠と崇めて私淑しています。
そんな和田さんに、まずは『論語』や『論語と算盤』、渋沢栄一に対して、どのように感じられているかを、おうかがいしたいと思います。
和田 洋一(わだ よういち)
1959年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業。野村證券勤務を経て、2000年より株式会社スクウェア取締役。翌01年、社長に就任。03年、エニックスと合併しスクウェア・エニックスとなった際も引き続き社長職に留まる。06年に完全子会社となったタイトーの代表取締役社長に就任。野村證券時代には2年間外務省に出向。ワルシャワの日本大使館で文化担当官を務めた。
和田 私は、経営者になろうと志した時、テーマを絞ることにしました。40歳になる時がちょうど2000年くらいですから、21世紀になって初めて実現することに貢献しようと思っていました。その後、考えをまとめ、2つに絞っていました。
1つは社会をつくること。これはインフラがIT・ネットになるために、今までとは違う社会形成がなされるであろうと考えたためです。もう1つは命をつくること。バイオの分野ですね。このどちらかに身を置こうと思っていました。偶然に出会ったゲームというのも、ネット上のコミュニティーを作る急先鋒ですから、広い意味では新しい社会を作ることだと自分の頭を整理しました。私は21世紀に初めてできる2つのうちの1つ、社会を作るということに自分を賭けることにしました。
他方、『論語』は、人間社会がいかにあるべきか、組織はどのようにあるべきかを説いた教えだと思っています。社会に対して非常に透徹した見解が展開されており、学ぶことが非常に多い。経営学ではドラッカーなんかも好きなのですが、これも社会というか、組織のことを説いており、『論語』の一部を切り取るとこうなるのではないかとすら思っています。