「実行」や「信頼」といった現代が直面する難問をもとに、渋沢栄一や「論語」の教えを実践している経営者の方々にインタビューしました。評論家や学者といった立場からの声ではなく、生々しい現場を預かる責任者の声として、きわめて示唆に富んでいると筆者は考えます。混迷の続く時代を照らすヒントとして、本連載を活用して頂ければ幸いです。
第6回目の今回は、みずほ銀行の前会長である塚本隆史氏にお話を伺いました。
なお、本文に登場する人物の年齢や肩書き、数値データなどは原則としてインタビュー当時のものですが、プロフィールは2013年6月現在の情報を表記しています。
欲と強欲は違う
守屋 まず、『論語と算盤』を初めて読んだきっかけを教えてください。
塚本 隆史(つかもと たかし)
1950年東京都生まれ。74年京都大学法学部卒業。同年4月株式会社第一勧業銀行入行。82年ハーバード・ビジネス・スクールBA取得。07年株式会社みずほコーポレート銀行取締役副頭取。08年株式会社みずほフィナンシャルグループ取締役副社長。09年同取締役社長、11年同会長兼株式会社みずほ銀行取締役頭取、13年同会長兼同銀行会長。
塚本 昭和49年に旧第一勧銀に入ってしばらくした頃、先輩から勧められました。そもそも第一銀行を創立された渋沢栄一さんの著書であり、しかも日本で最初の銀行を始めた方なので、一般的な興味から読んだという感じでした。
守屋 最初に読まれたときは何か感じるところはありましたか。
塚本 そうですね、当時、私が就職した頃は、ちょうど高度成長期が終わるときでした。戦後初めて経済成長率がマイナス1.2%になり、その後オイルショックを経て安定成長に入っていくわけです。「いろんなことがあるけども資本主義ってすばらしい」という時期の最後だったわけです。その中でオイルショックが起きて、第一次のときは結構ひどいことになりました。有名な、洗剤とかトイレットペーパーの買い占めとか、あるいは国民総需要抑制策というのを政府が打ち出して、テレビの時間も制限されました。
NHKさんも夜11時で放映をやめまして、日中も3チャンネルでしたか、この時間帯だけは真っ暗に、放映しませんというようなこともやった時期です。
それから物価がみるみる上がっていきました。やっと豊かになったはずの日本の小売の店頭に行っても、必要なものが買えない。これは、必ずしもいいことずくめではないな――そんな思いと、おそらくつながる感想を持ったと思います。