ビジネスの本質は、顧客に価値を提供することです。英語では「バリュー・プロポジション(Value Proposition)」と言います。顧客は価値を感じなければ、企業が提供する財またはサービスを欲しいとは思いません。しかもタダではなく、顧客がお金を払ってでも欲しいと思うほどの価値、さらに、企業が適正な利益を確保できる水準の価格を喜んで払ってくれなければいけません。したがって、あなたのビジネスが顧客に提供している価値は何かということを、真剣に考え抜く必要があるのです。
「なんだ、当たり前のことではないか」「ビジネスをしている人なら、自分が顧客に提供している価値が何かということくらい、わかっているはずだ」と思うかもしれません。しかし、自社が顧客に提供している「本当の価値」が何かをわかっていない企業は意外と多いのです。
提供価値(バリュー・プロポジション)を間違える
たとえば、ラグジャリー・ブランドが提供している価値は何でしょうか。ルイ・ヴィトンのバッグは、収納容量や耐久性などの機能面で全く遜色のないノンブランドのバッグの何倍もの価格であるにもかかわらず、喜んでルイ・ヴィトンのバッグを買う顧客が存在するのです。
つまり、ルイ・ヴィトンが提供しているのは、バッグが提供している狭義の「機能」ではありません。ルイ・ヴィトンの顧客は狭義の機能を超えた別のものに価値を感じており、その価値に対してお金を払っているわけです。おそらく、それを持つことによる満足感、すなわち、ルイ・ヴィトンのバッグを持って歩くことによる「自己実現」に価値があるのです。
これを突き詰めていくと、ルイ・ヴィトンという企業は一体何者かという議論に発展します。もし自社がバッグという「モノ」を作る「製造業」だと自己定義すれば、自社の仕事はバッグを作ることになります。したがって、販売はデパートなどの他の企業に任せて、自分のビジネス領域である「製造」に特化すればいいということになります。実際、デパートのバッグ売り場に立つ販売員は、バッグ・メーカーの従業員ではなく、デパートの従業員であることも多いのです。
ところが、有名デパートにあるルイ・ヴィトンのコーナーは、同社の直営ショップです。すなわち、ルイ・ヴィトンが運営し、同社の職員が配置されています。デパートからはあくまでも場所を借りているだけなのです。メーカーなのに、なぜ販売まで自社でやる必要があるのでしょうか。
これはおそらく、ルイ・ヴィトンが自社をバッグ・メーカーだと考えていないからです。単に「モノ」を製造して提供するだけではなく、顧客の購買体験も含めた価値を提供していると捉えているのです。ルイ・ヴィトンのバッグを持つことによる満足感や自己実現は、実は購入の時から始まります。お店に入り、まるでVIPであるかのような丁寧な接客をしてもらい、店を出るときには90度のお辞儀で送られ、ハッピーな気持ちで店を後にする。そのような購入体験も、ルイ・ヴィトンが提供している重要な付加価値です。
したがって、ルイ・ヴィトンが「買う楽しさ」「持つ楽しさ」という「体験の提供者」だと自社を定義すると、販売を他社に任せることはできないのです。