競争しない競争戦略

孫子と生物学に学ぶ「戦わずして勝つ」 山田英夫氏

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企業では、競争することは当たり前のように考えられてきたが、他の分野では、競争はどのようにとらえられてきたのであろうか。ここでは、孫子と生物学(生態学)の2つの視点から、それを見てみよう。

ビジネスで用いられる「戦略」「戦術」や「ロジスティックス」という言葉は、もともとは軍事・戦争用語である。また、営業部門でしばしば用いられる「ランチェスターの法則」も、軍事・戦争の定石の応用である。その意味で戦争は、競争の概念を理解するために度々参照されてきた。その戦争に関する基本的な要諦を述べた書として、『孫子』が挙げられる。

一方、企業は人間から成る組織であることから、生物学(生態学)のアナロジーで組織や企業を考えるアプローチは以前から行われてきた。『組織化の心理学』(ウェイク)、「組織の個体群生態学」(ハナン&フリーマン)、『企業進化論』(野中)などがその例である。

孫子の教え

『孫子』は今から約2500年前に、中国の孫武によって書かれたと言われる兵法書である。

孫子の有名な言葉に、「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」(諜功編〈第3〉)というものがある。これが世に有名な「戦わずして勝つ」の原文である。

百戦百勝は一見最善に見えるかもしれないが、勝った方にも被害が出るため、戦わず勝つのが最善だと言うのである。企業の競争で言い換えれば、全面的な直接競争をすると、自社にも競争相手にも、マイナスのインパクトが大きいということである。

かつてのオートバイにおけるHY戦争(ホンダ対ヤマハ)、出版における音羽・一ツ橋戦争(講談社対小学館)などの全面競争は、勝った側にも組織疲弊を招いた。さらに、予備校業界では、1980~90年代に代々木ゼミナール、河合塾、駿台予備学校の3大予備校が、人気講師の引き抜きなど仁義なき戦いを繰り広げたが、2014年に代ゼミはこの後遺症から、大幅なリストラを余儀なくされることになった。

孫子は、(1)競合の方が弱い場合、(2)ほぼ対等な場合、(3)競合の方が強い場合に分けて、いくつかの戦略定石となる言葉を残している。

第1に、競合の方が弱い、すなわち自社の方が強い場合は、業務提携を迫って競争をなくしたり、M&Aによって傘下に収めたりしてしまうことが望ましい。

第2に、ほぼ対等である場合には、相手のエネルギーが小さい間に摘み取るか、相手が戦うエネルギーを自社に向けてきても、それをうまくかわすことをすすめている。

そして第3に、競合の方が強い場合には、逃げるか、戦わない算段をして、生き残りを図ることをすすめている。例えば、強い者の協力者となって生き残りを図ることは、この戦略の1つである。

このように3つの状況における戦略定石を見てみると、どの場合にも全面競争をするという作戦は示されておらず、「戦わないこと」の重要性が説かれていると言えよう。

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