教科書を超えた技術経営

「ジョブズの魔法」のメカニズムを解く 伊丹敬之氏

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デザインをベースにイノベーションを興し続けている企業の象徴的な例は、アップルであろう。

感覚的な部分に注目したジョブズ

アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズは、アップルを創業して間もない頃から、コンピュータを構成する個々の技術的な要素に加えて、製品の美しさや使い心地のよさといった感覚的な部分に注目していた。

1984年に発表したApple 2cにおいて採用されたデザイン基準「Snow White design language」では、ゼロドラフト(抜き勾配ゼロ)という形状的な特徴や、オフホワイトやグレーの塗装、最小限の表面テクスチャ、最小限必要な設置面積、可能な限り小さなサイズの採用といった特徴を持っていた。このデザインが、その後のパーソナルコンピュータのスタンダードとなり、アップルのイメージを決定づけるものになった。

アップルのデザイナーたちはそれを継承して製品を作り続けたが、同社復活の要因となったiMac(1998年)登場まで、同社のデザインが大きく注目されることはなかった。

アップルに復帰したスティーブ・ジョブズは、それまでのクリームがかった白、あるいは黒という選択肢しかなかったパソコンに、半透明カラーで、かつカラフルな配色のiMacを導入した。卵型の一体ケースから、キーボード、マウス、電源ケーブル、そのすべてが半透明で、かつスタイリッシュなデザインで統一されていた。さらに、この内部がうっすらと見えることから、基板類の内部レイアウトにまで美しさの配慮がなされていた。

このiMacの開発は、「消費者は一体型マシンを求めていない」というマーケット調査を無視し、さらに、この美しい半透明ボディのために「ブラウン管の電磁波を防ぐための金属カバーや特殊な内部塗料が利用できず、またポリカーボネート樹脂に色素を均一に混ぜることが難しい」といった技術的な課題を残し、技術者からボディの採用を反対される中で進められた。そしてアップルにおいて過去最大のヒット製品となり、同社復活のきっかけとなった。

このようなデザインは、マーケット調査からは決して生まれない。革新的なプロダクトは、「見えるもの」や「聞こえるもの」を調べて分析することからは決して生まれない。ユーザーが今後、何を望むようになるのか、それをユーザー本人よりも早くつかむために、スティーブ・ジョブズは自らが欲しい製品を作り続けてきた。いうならば、スティーブ・ジョブズ自身がエクセレント・ユーザーなのである。

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