模倣の経営学

トヨタ生産方式も「模倣」から生まれた 早稲田大学商学学術院教授 井上達彦氏

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「模倣は創造の母である」と言われる。経営の世界では一般に、模倣は独自性や創造性とは逆の方向をいくものとされ、よくないイメージがある。しかし、トヨタもセブン―イレブンもスターバックスも、優れた企業を「真似て、超える」ことで成功した。古今東西、新たなイノベーションは徹底した模倣から生まれている。お手本とする他者の本質を見抜き、自社で生かせる「儲かる仕組み」を抽出する創造的な模倣の方法を紹介する。

スーパーから生まれたトヨタ式

意外な結びつきによって何かが生まれ、新しい発想が得られるというのは、決して珍しいことではない。

トヨタ生産システムが、スーパーマーケットからヒントを得て生まれたことをご存じだろうか。トヨタ生産システムの生みの親である大野耐一氏は、アメリカのスーパーマーケットの仕組みを人づてに聞き、それを自らが目指す「ジャスト・イン・タイム」の生産に応用できると考えた。

大野氏のイノベーションは、模倣から生まれた逆転の発想にある。自動車というのは、材料が加工されて部品になり、その部品が組み合わされてユニットとなり、そのユニットが組み立てられて出来上がっていく。従来は、生産の流れというものは、前工程が後工程に部品を供給するという発想で形作られていたが、大野氏は、この流れを逆転させた。同じものを計画的に大量生産するときは、押し出す方式でよかったのだが、違うものを少しずつ生産するためには、引っ張る方式が適切だと考えられた。

こうして、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」引き取りに行くことになった。こうすれば、購買者は不要なものまで引き取らなくてよいし、供給者は引き取られた分だけ作ればよいことになる。

大野氏は、著書『トヨタ生産方式』で次のように説明している。

 「スーパーマーケットから得られたヒントとは、スーパーマーケットを生産ラインにおける前工程とみてはどうかということであった。顧客である後工程は、必要な商品(部品)を、必要なときに、必要な量だけ、スーパーマーケットに当たる前工程へ買いに行く。前工程は、すぐに後工程が引き取っていった分を補充する。こうしてやっていくと、私どもの大目標である『ジャスト・イン・タイム』に接近していけるのではないかと考え本社工場の機械工場内で昭和28年(1953年)から、実地に応用してみた」

当時といえば、天秤棒でざるや桶をぶら下げて売る「ふり売り」や、「御用聞き」に代表される訪問販売も珍しくなかった時代である。また、小売りといっても、市場で売り子に商品を勧められながら買うことも多かったようだ。

それだけに、大野氏にとって、スーパーマーケットは新鮮に映ったはずだ。スーパーマーケットでは、売り子に強いられることなく、セルフサービスで必要なものを必要なだけ取っていくことができる。「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」購入できる新しい形態の店なのである。

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