先の見えない厳しい経営環境を生き抜く組織はどうあるべきか。そのヒントは、中国古典と米軍の最新軍事理論にありました。一見、正反対に見える2つの理論が、どうからみあって経営組織学に結びつくのか、『組織サバイバルの教科書 韓非子』著者の守屋淳氏と『米軍式 人を動かすマネジメント』著者の田中靖浩氏が、対談しました。10月12日に日本経済新聞出版社が開催したトークショーの模様をお届けします。
日本の経営は「願望経営」、その象徴が「予算」
田中 特に段取りを決めているわけじゃないんですが、トークショーですので軽い感じでやってみようと思います。守屋さんが8月に『組織サバイバルの教科書 韓非子』を出されて、すぐに私も読ませていただきました。孫子の兵法で2年前にブームをつくった守屋さんが、今度はなぜ、韓非子なのかお聞かせいただけますか?
守屋 はい。でもその前に、なぜ、ジャンルの全く異なる私たち2人がここにいるのかを説明をしましょうか。私が講師をしていた孫子の勉強会に、ある編集者の紹介で田中先生がいらっしゃって、孫子を気に入ってくださった。それを機に、2人でネタの交換会をやるようになったのです。そのやり取りの中で、私が妙に納得したことがありまして......。それは「予算に対する問題意識」なんですよ。
私も昔、本屋さんでサラリーマンをやってまして、予算も立てていました。すると、上司から「おまえ、今年は8%増でやれよ」と言われる。でも、「いや、そんなの無理ですよ」なんて返して、市場の仲買いのやりとりみたいなことやっていました。そのときは私も若かったので、「そんなもんかなー」と思っていたのですが、田中先生と話をするようになり、「あれって、変だったよな」と思うようになったのです。
なぜ、合理性のない数字を決めて、それを追求するのか......。ずっと不思議に思っていたことですが、それを解き明かす話を聞きました。ある欧州企業の日本支社長で、米国でベンチャー企業を起こしている方が、こう言っていたのです。「日本の経営は『願望経営』。だから現場依存になるんだ」と。どういうことかというと、欧米では日本人がよく使う「現場主義」って、ほとんど言わないそうなんです。だから、日本人の言う「現場」という言葉が非常に翻訳しにくいのだと。日本は欧米と違って現場を重視する。それは願望で経営が成り立っているからで、その象徴が予算だというんです。
例えば、「ある会社は今年150億円の売り上げがあって、5年前は100億円だったので、この調子でいけば、5年後には200億円になるはずだ」といった場合、この200億円という数字は、単なる願望でしかないことが多々あります。「願望経営」の特徴は(1)非合理である(2)現場に何でも降ってくる‐‐ということです。
一方、欧米では「経営とはトレードオフの選択だ」と考えるそうです。だから、社員10人、営業所10カ所の会社で、1つの営業所は社員2人いないと回らないとした場合 「A案:社員を20人に増やす」か「B案:営業所を5つに減らす」の選択が、経営判断になるのです。ところが、日本は「現場に放り投げる」というのが経営判断となります。何が起こるかというと、皆死に物狂いで働いて、営業所を1人で回すようになるのだそう。なるほど、予算というのはそこからくるのかという気付きがありました。