日本の電機産業が凋落した背景には、たびたび繰り返される「負けパターン」がある――。日経BizGateの人気連載『新・日本産業鳥瞰図』において、著者の泉田良輔氏はこのように指摘してきた。
そして現在、製造業全般においても日本企業が「いつもの負けパターン」を繰り返そうとしている、と泉田氏は警鐘を鳴らす。製造業が直面するIoT(モノのインターネット)の脅威と日本企業の課題について、泉田氏に聞いた。
泉田良輔 氏(いずみだ りょうすけ)
GFリサーチ代表。個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)編集長、および株1(カブワン)、投信1(トウシンワン)の監修も務める。それ以前はフィデリティ投信・調査部にて日本のテクノロジーセクターの証券アナリスト、日本生命・国際投資部では外国株式運用のファンドマネージャーとして従事。慶応義塾大学大学院卒。著書に『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』。東京工業大学大学院非常勤講師。
日本企業の負けパターンの1つに「システムの競争」で負ける形がある。ハードウェア単独では競争優位を確立できても、競争のルールが、ハード、ネットワーク、サービスプラットフォームを含んだ「システムの競争」に変わったとき、日本企業は競争力を失ってしまう――というものだ。
スマートフォン市場の例がわかりやすいだろう。ハードウェア(iPhone)、OS(iOS)からサービスプラットフォーム(iTunes、App Store)までを垂直統合した米アップルがイニシアチブを握り、日本のスマホメーカーは撤退や事業規模縮小を余儀なくされた。日本企業が圧倒的に強かったデジタルカメラもそうだ。カメラ機能がスマホに吸い込まれてソーシャルネットワークに直接つながり、ユーザーの使い方が変わった。iPhoneの登場以降、競合するコンパクトデジタルカメラ市場は急速にしぼんでいる。
様々な市場がこうした「システムの競争」へと向かっている。電機産業の民生機器だけでなく、最近は製造業全般の産業機器にも広がりつつある。
ところが、競争ルールの変化に対する日本企業の対応が「ピント外れ」になっていて、また同じ負けパターンを繰り返そうとしているようにみえる。そう感じる理由について話していきたい。
「強いハードありき」の競争ルール
産業機器をネットワークにつなぐ「システムの競争」の代表例は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が主導している「インダストリアル・インターネット」である。GEは、ガスタービン、ジェットエンジン、風力発電機、水処理施設などインフラに近い領域の製造を手がけていて、グローバルシェアも高い。こうした産業機器にセンサーを取り付け、ネットワークに接続して稼働データを収集・分析し、燃費改善や効率化、コスト削減につながるサービスを顧客に提供する、というのがインダストリアル・インターネットのコンセプトである。
これは、いわゆる「IoT(モノのインターネット)」を基盤としたソリューションの1つだ。ここに商機を見つけて「良いセンサーをつくり、様々なところにセンサーをばらまく」と考える日本企業は多い。
しかし、着目すべきところが間違っていると言わざるを得ない。センサーをばらまくにしても、「そもそも、どの産業機器なら自社のセンサーを取り付けてもらえるか」という問題がある。