ソーシャルビジネスという言葉を耳にしたことがあるでしょうか。様々な社会的問題の解決につながる事業のことで、グラミン銀行の創始者であるムハマド=ユヌス氏が2006年にノーベル平和賞を受賞したことでも注目を集めました。
近年、社会的問題の解決手法としてソーシャルビジネスへの期待が高まっています。これらは中小企業にとっても無関係ではありません。中小企業がソーシャルビジネスに取り組む意義について、日本政策金融公庫が行った調査をもとに考えます。
中小企業こそ取り組むべき
「中小企業が社会的問題の解決を」と言われてもピンとこない人も多いかもしれません。本業が忙しいのに社会的問題に取り組む余裕などないという人もいるでしょう。
実際、2007年に国民生活金融公庫総合研究所(現日本政策金融公庫総合研究所)が行った「地域貢献に関するアンケート」では、何らかの地域貢献に取り組んでいる企業は44.6%にとどまり、地域貢献に取り組まない理由として「時間の余裕がないから」「経済的に余裕がないから」を挙げている人が多くみられました。
しかし、ソーシャルビジネスこそ中小企業が取り組む価値のある事業と言えます。なぜなら地域の社会的問題の解決は、中小企業の存続に直接結びつくからです。中小企業にとって、従業員や顧客の多くは地域住民や地域の企業であることがほとんどですし、事業を行う拠点を変えることは容易ではありません。企業が存立する地域に社会的問題が山積しているようでは、健全な企業経営も難しくなるでしょう。地域の過疎化や高齢化が加速すればいずれ従業員や顧客の確保が困難になり、事業基盤が揺らぎかねません。
また、こうした社会的問題に取り組むことで地域での企業イメージの向上や、地域から感謝されることで社員のモチベーションが上がるといった様々な好影響も期待できます。ソーシャルビジネスが本業の維持・拡大に役立つとなれば、取り組む意欲も湧いてくるのではないでしょうか。
海外では1980年代から注目
海外でも社会的問題の解決は、主に政府や地方自治体などが担ってきました。しかし、1980年代に入ると、イギリスやアメリカなどの欧米各国で、財政的な制約から社会保障の見直しが行われることになります。そこで、新たな社会的問題解決の手法としてソーシャルビジネスが注目され始めました。
現在では社会的問題に取り組むソーシャルビジネスが多数存在し、その内容も地域の貧困問題や犯罪者の更正など国内の問題への取り組みから発展途上国における衛生状況の改善など海外での活動まで様々です。ホームレスのみが販売できる雑誌を刊行し、その売り上げでホームレスの自立を助ける「ビッグイシュー」などがその代表と言えます。ソーシャルビジネスへの金融支援やコンサルティングなど支援体制の整備も進められ、各国政府や欧州連合(EU)だけではなく、多くの財団など様々な民間支援機関もソーシャルビジネスの支援を行っています。
発展途上国においても冒頭に紹介したグラミン銀行のように貧困問題の解決などにソーシャルビジネスの手法を活用している事例も見られます。