匠の技を超えろ、LEDで光合成の能力検知
先進経営で知られる浅井農園(津市)でこれまでの栽培方法の常識を覆す技術の実証実験が進められている。テーマは「植物の光合成の能力を検知する」。トマトの木に青色発光ダイオード(LED)の光を当て、植物がうまく光合成をできる状態になっているかどうかを調べている。
技術を開発したのは愛媛大発のベンチャー、プラントデータ(松山市)だ。病気や高温などの影響で植物が弱り、光合成する元気がなくなると、いずれ生育不良となって影響が顕在化する。プラントデータの技術はその手前で異常を見つけることで、栽培の失敗を防ぐことを目指す。
農業の技術開発は人の仕事を機械に置きかえることを中心に進められてきた。代表例は田植え機や稲刈り機だ。効率を飛躍的に高めたが、人が時間をかけてできない仕事ではない。だが革新的なテクノロジーが発想の転換を可能にした。
匠(たくみ)の技の上を行け――。農業の技術開発が掲げる目標だ。植物の光合成のスキルを調べる技術はその象徴。どんなベテラン農家でもまず気づかない段階で、植物の異変を察知してアラームを鳴らす。
人工知能(AI)を使った技術も実用化が進んでいる。ルートレック・ネットワークス(川崎市)は明治大と共同で、日照量や気温、地中の水分量を測り、AIを使って植物が吸った水の量を推計するシステムを開発。植物が必要とする量の水を自動制御で供給することを可能にした。
LEDなどの人工光で野菜を育てる植物工場でも、規格外の挑戦が始まっている。バイテックホールディングスは2月、レタスなどの葉物野菜を育てる工場の新設計画を発表した。工場の数を現在の3カ所から2020年には8カ所に増やす予定。実現すれば、1日のレタスの生産能力はなんと25万株を超える。
農業という言葉を聞いて「豊かな自然」をイメージする人も少なくないだろう。だが自然はときに天候不順の形で農産物に深刻な被害を及ぼす。その傍らで、生産が安定している工場野菜が外食店などに着実に浸透しつつある。バイテックはそれを一気に加速させる可能性をはらむ。
高精度のセンサーやドローン、AIなど最新の技術が農業に次々に応用され実用化が進む背景には、使いやすさを重視したシステムが増えてきたことがある。ルートレック・ネットワークスのサービスはAIを使っているが、現場ではそれを意識しないで栽培に役立てることができる。
その意味で特徴的なのがトヨタ自動車のサービスだ。同社が開発したシステムは、クラウドで農産業を管理する新しい技術。ただ農家がそれを使いこなせるようにするため、得意の「カイゼン活動」で農場のスタッフを指導する。システムを活用しながら作業工程全体を見直すトヨタらしいサービスといえる。
いまや大手からベンチャーまで、様々な企業が農業の技術革新を競い合っている。その挑戦の先に農業再生の手がかりが見えるだろう。
(編集委員 吉田忠則)
同事務局長によれば、これまで食料生産は大量の資源を投入し環境に負荷をかける農業システムに支えられ、土壌、森林、水、大気、生物多様性を損ない続けてきた。そうした犠牲を払ってでも生産を増やすやり方では飢餓をなくせなかった半面、「世界で肥満が広がっている」と指摘する。
もちろん市場経済をいたずらに敵視しては、環境、飢餓、健康などの問題を解決できないことは、20世紀に大半が崩壊した社会主義諸国の教訓から明らかだ。旧ソ連ではノルマ達成を至上目標とする生産体制のせいで、資本主義国を上回る環境破壊を引き起こしたとされる。多くの国民が飢えに苦しんだことはいうまでもない。
そこでカギを握るのがアグリテックだ。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」による水田の水管理、ロボット技術を生かした自動走行トラック、栽培履歴や農機の稼働状況などビッグデータの収集・解析、AIの活用など、多様なテクノロジーが農業で活用できる。日本が直面する人手不足を含め、さまざまな課題をテクノロジーで解決するアイデアの実用化が近い。
政府が目標に掲げる農産物の輸出拡大も、先端技術による品質向上とコスト低減が必要だ。真に持続可能な食料生産は、今やアグリテックなしに語れない。
キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、営業、技術、製造、プレーヤー、イノベーション、M&A、AI、IoT、ICT