デジタルマーケティングの最新動向をボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の森田章パートナーに聞く今回のシリーズでは、パーソナライゼーション(個別化)、メーカーと小売りの共闘、イノベーションを担うスタートアップ、AI(人工知能)シフト…などをテーマに論じてきた。経営にデータ・ドリブン・マーケティング(データに基づくマーケティング)の視点があれば競争力につながる。シリーズ最終回では、データ活用の人材・組織づくりや個人情報管理の法的リスクを論じる。
■米スタバ、客一人一人に合わせ提案
米国でのスターバックスのパーソナライゼーションは徹底している。同社は、モバイルアプリを通じて一人一人にカスタマイズして提案する仕組みを2016年末に作り上げた。会員顧客のアカウント、好み、購入商品・場所などの購買情報だけでなく、天気やアプリの利用状況なども含めてリアルタイム・パーソナライゼーション・エンジン(顧客情報を基にリアルタイムで商品などを推奨するツール)で分析する。
たまに来店する顧客には、定期的な来店を促す。週に2~3回来店し、いつも同じコーヒーを購入する顧客には、違う飲み物や、食べ物の「ついで買い」を提案。高い頻度で来店し、アプリをよく使う顧客には、飽きさせないよう新商品を紹介する。こうした取り組みの結果、2017年末の同社の発表によると、米国における会員顧客による売り上げは前年に比べて20%増加したという。
また、BCGにはBCG Digital Venturesという組織がある。大企業と共に新規事業を創造する部隊で、デジタルマーケティングにも力を入れている。BCG Digital Venturesと米スターバックスとのジョイントベンチャーであるFormation(旧名TAKT、サンフランシスコ市)は、AIを活用したパーソナライズドマーケティングのプラットフォーム(基盤)を自社で構築した。このプラットフォームは、スターバックスと競合しない企業に対してライセンス展開するといったことも可能である。
■米大手スーパー、客層別に値引きクーポン
データ・ドリブン・マーケティングを徹底し、臨機応変に価格を設定する「ダイナミックプライシング」を取り入れた企業もある。米大手スーパーチェーンでは価格感度の高い人にだけ値引きクーポンを発行するなど客層別に対応する。
欧米で急速に進むデータを軸にした経営を日本企業が進めるには、データアナリストなどの人材育成が課題だ。分析ツールは発達・普及しているので、社内の若手などから選抜して育てていくべきだろう。一方、正しい分析結果を得るためには、アルゴリズムなどの設計ができなければならない。