前編では、自然資本とは何か、そして企業活動が自然資本にいかに依存し、また破壊しているかを述べた。しかしこれは、企業活動が自然資本に依存していることを考えると、自分が立つ足元の地面を切り崩しているかのような愚かしいことであり、自ら事業存続のリスクを引き起こしている状況であると指摘した。
そのようなビジネスモデルが長く続くことはあり得ないので、欧州ではこうしたリスクを開示するように投資家と行政からの圧力が高まっている。これがいわゆる非財務情報の開示の動きである。
こうした状況に対応して、サプライチェーン全体での自然資本への負荷(≒リスク)を測定するためのツールとしていま注目されているのが「自然資本会計」である。今回はこの自然資本会計について、先進企業がそれをどう活用しているかを紹介しながら説明しよう。
本当のリスクはどこにあるのか?
前編でもご紹介したTEEBビジネス連合による「リスクにさらされている自然資本」の中間報告に非常に興味深い例が掲載されている(図表1)。あるジュースメーカーのバリューチェーン全体について、どこでどれだけの水が使用されているかを分析した結果を示したものである。これを見るとすぐにわかるが、ジュースメーカーがボトリングしているプロセスや、包装材を作っているプロセス、つまりは工場で使っている水は、実はサプライチェーン全体の10%でしかない。全体の88%の水は、最上流の農園で使用されているのだ。
図表1 ジュースメーカーのバリューチェーン全体での水の使用量
(出所)"Natural Capital at Risk: a study of the top 100 business impacts"( レスポンスアビリティ 訳)