最近「自然資本」という言葉が注目されていることにお気付きだろうか? 例えば、今年10月に韓国で開催された生物多様性条約の第12回締約国会議(COP12)では、様々な場面において自然資本という言葉が使われ、私たちの生活や企業活動を支えるこの重要な資本をどのように守っていくか、増やしていくか、という議論が熱心に交わされた。
非財務情報として注目される自然資本
欧州連合(EU)理事会は今年9月にEUの大企業に対して非財務情報の開示を義務づける指令を承認したが、こうした非財務情報の中でも特に注目されているのが自然資本である。
EU指令とは別に、欧州などの機関投資家も企業に非財務情報の開示を強く迫っており、財務情報と一緒に様々な非財務情報も含めて報告する、いわゆる統合報告の動きが加速している。2013年12月には、国際統合報告委員会(IIRC)が統合報告フレームワークを発表した。これは以下のような考え方に基づくものである。
企業活動は財務資本だけがあれば行えるものではなく、製造資本や人的資本、知的資本や社会関係資本、そして自然資本が必要である。これまでは、どれだけ財務資本を投下してビジネスを行い、1年間の事業の結果どれだけそれが増えたのか、減ったのかということが報告されてきた。最近では知的資本などについても、どれだけそうしたものを持っているのか、1年間でどれだけ増えたのかも開示されている場合もあり、投資家は企業のポテンシャルを判断するのにそのような情報を参考にしている。
しかしこれまで、1年の事業活動の結果、企業がどれだけ自然資本を増やしたのか、減らしたのかということに注意が払われることはなかった。地球上のほとんどすべての場所において自然環境が劣化しているということは、ビジネスが依存している自然資本は毎年減少しているということだ。にもかかわらず、自然資本の現状はどうなのか、また、企業活動がそれにどのぐらい影響を与えたかということについて、私たちはほとんど知らないできたのだ。
自分たちが依存している資本をどんどん減少させながら事業を行っているのだから、そのような事業が「持続可能」であるわけはなく、しかも状況は悪化の一途をたどっている。研究者などが実際に調べてみると、現在の事業活動は大変な勢いで貴重な自然資本を食い潰しており、その結果、将来の利益が失われたり、そもそも事業が行えなくなったりすることもわかってきた。
ということは、現在の業績が良いと思って投資した会社であっても、将来は利益が大きく減少したり、最悪の場合、事業そのものが続けられなくなったりすることもあるわけで、これでは怖くてとても長期投資などできなくなってしまう。
だからこそ、年金基金などの長期投資を行う機関投資家ほど、財務情報だけではなく、非財務情報の開示を企業に迫っているのだ。
一部の先進的な金融機関は2012年に「自然資本宣言」を行い、企業の自然資本に関する情報を参考にして、自然資本へのマイナスの影響を小さく抑える努力をしたり、プラスの影響をもたらしたりしている企業に積極的に投融資を行うと表明している。