日本型のイノベーション=「和ノベーション」を実現していくには何が必要か。ドイツ系戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーの長島聡社長が、圧倒的な熱量を持って未来に挑む担い手たちを紹介していくシリーズ。第12回は慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の白坂成功氏です。
専門を束ねられる人材を育成
長島 白坂さんとは、経済産業省の「素形材産業を含めた製造基盤技術を活かした「稼ぐ力」研究会」などでご一緒する中で、ご専門のシステムデザイン・マネジメント(SDM)などについて、ぜひ詳しくお聞きしたいと思い、対談をお願いしました。まず、慶應SDMの設立の経緯や研究内容について教えていただけますか。
白坂 大学院というと、普通は専門性を追究する場を想像すると思いますが、慶應SDMは専門を束ねるのが専門と言えるでしょうか。2008年に設立するにあたって企業の意見を聞いたところ、大学院の専門性はもちろん必要だが、社会には1つの専門だけでは解決できない課題もたくさんある、という指摘を受けました。企業は日ごろ、収益面はもちろん、消費者がどう感じるか、社会をどう変えていくか、といったことまで考えながら製品・サービスを開発しています。そういった複数の専門を束ねる専門性を体系化し、研究をおこなったり、そういったことができる人材を育成するためにつくられたのが慶應SDMとなります。
長島 当然、社会人の方も多いわけですよね。
白坂 現在、専任教員が12人、修士課程の定員が1学年77人、博士課程が全部で30~40人くらいですから、総勢200人くらいの組織です。学生のうち、社会人が7割、学部卒業の新卒学生が3割といったところです。
長島 どんな業種の企業の方が多いのですか。
白坂 バラバラですね。大手のコンサルタントや金融関係の人もいれば、ベンチャー企業の経営者、さらには吉本興業の人までいます。
長島 ええっ?吉本ですか。
白坂 はい。現役のお医者さんや大学の教授もいます。今までにない研究領域ですので、私たちも学生たちと一緒に「新しい学問」を作っている感じです。実際、経験を積んでこられた社会人の方々から学ぶことはとても多い。業界横断的に使える知恵やノウハウは、どんどん授業に反映しています。
長島 学生の方々が身に付けたいものは何でしょう。スピード感? それとも大志?
白坂 それもバラバラですね。最近多いのは、変化への対応力でしょうか。世の中の変化はどんどん速くなっていますから、それに追随できる組織、人材を作りたいという人は増えています。ただ、本当に色々な問題意識を持った人が集まっていますので、私たちが教えるのは基本的に知識ではなく、思考法になります。