バブル崩壊後の就職氷河期(1993~2005年)を境に、社会人の「仕事観」が大きく変化したといわれる。不況、リストラ、倒産などを身近なものとして感じ続けてきた40代前半までの若手・中堅層では、「会社に依存せず、自分の信じることに従い、ワークライフバランスを重視し、転職市場でも評価される人間になりたい」といった意識が強いとされる。
そんな「世代の空気」を形にした会社の1つが、ソフトウエア開発を手掛けるソニックガーデンなのかもしれない。同社は「納品のない受託開発」という新しいビジネスモデルをつくり、業界で注目されている。社長の倉貫義人氏はロスジェネ世代(※)である。
(※)バブル崩壊後の就職氷河期(1993~2005年)に社会人となった世代(現在の年齢は30代後半から40代前半)
ソニックガーデンでは、新卒社員を除く全社員が「リモートワーク(在宅勤務)」で自律的に働きつつ、1つのチームとして仕事をしている。倉貫氏は、実際のオフィスに出社することを「物理出社」、ネット上のバーチャルオフィスにログインすることを「論理出社」と呼び、自らも「論理出社」のリモートワークを実践している。東京のオフィスから遠く離れた地方・海外在住の社員もいる。従来の大企業にはないワークスタイルだ。
作業場所はバラバラでも、コミュニケーションが活発で、仲間への信頼は厚い。倉貫氏は、「自分が好きな仕事を、信頼できる仲間と一緒に、無理なく続けられる環境が大切」と語る。リモートワークは、そうした施策の1つだという。
仕事観に合わせてワークスタイルを変えていく。倉貫氏へのインタビューをご覧いただきたい。
――先進的なリモートワークを導入していますが、きっかけは何だったのでしょうか。
ターニングポイントは3つありました。1つめは、創業メンバーの1人が「海外で暮らしながら今の仕事を続けたい」と言い出したことです。ソニックガーデンは大企業の社内ベンチャーからスタートした企業です。当然、それまでの働き方は「決まった時間にオフィスに行く」スタイルだったので、海外で暮らしながら今の仕事を続けたいという話に最初は驚きました。
しかし、考えてみればプログラミングの仕事はオフィス以外の場所でも十分できます。だから、「とりあえずやってみよう」と実験的にリモートワークを実施してみたんです。最初は国内の自宅で在宅勤務を試してみたところ、問題なく仕事ができることがわかったので、海外でのリモートワークに踏み切りました。
2つめのポイントは人材採用の問題です。雇用条件を「東京限定」にすると、優秀な人材は獲得競争が激しくて採用が難しい。ですから、応募条件は「住居地不問・在宅勤務可」にしました。この条件で最初に応募してきたのは、兵庫県在住の人でした。優秀な人材だったので採用したいと考えました。