「アマゾン・ドット・コム(アマゾン)」の名前を、インターネットで買い物するとき以外でもよく聞くようになったことは、多くの人が感じているだろう。最近では、日本国内の物流・配送問題の関連企業として、さらにはAIスピーカー「Amazon Echo(アマゾンエコー)」の発売によって注目を集めた。また、米国の大手高級食品スーパーのホールフーズマーケット(ホールフーズ)を137億ドル(1ドル=113円換算で約1兆5481億円)もの金額で買収したことでも知られる。
いまだ多くの人にとってアマゾンは、書籍を中心としたEC(電子商取引)事業者という認識が強い一方、最近のアマゾンの事業展開には目を見張るものがある。ITの分野ではアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)という業界トップクラスのクラウドサービス事業を展開しており、ハードウエアでは電子書籍リーダー「キンドル」も開発・発売している。
では、アマゾンは一体どのような会社になろうとしているのだろうか。今回は、最新の決算資料などをもとにアマゾンの強みを探るとともに、あらゆるものを飲み込みつつあるように見えるアマゾンに対し、日本の小売業はどうしたら勝負できるのかについて考えてみたい。
アマゾンは何で儲けているのか
まず、アマゾンの強大さを見ていこう。
アマゾンの株式時価総額をご存知であろうか。投資家が投資対象企業の価値を評価する際、はじめに注目するのが、株価に発行済株式数をかけて算出するこの時価総額である。利益規模が大きい場合、あるいは将来の成長性を投資家が認めた場合には時価総額が大きくなると言われる。
アマゾンの時価総額は2017年11月10日の時点で5423億ドル、1ドル=113円換算では約61兆円に上る。時価総額が日本最大の上場企業はトヨタ自動車であるが、そのトヨタの時価総額は約23兆円であり、アマゾンの時価総額はトヨタの2倍以上ある。
先ほど、時価総額は、利益規模と将来の成長性に帯する評価で決定されると述べた。アマゾンの利益規模はトヨタに比べてどうなのであろうか。
実はアマゾンの2016年における税引き後の利益である当期純利益は23.7億ドルで、1ドル=113円換算では2679億円だ。一方、トヨタの2016年度の当期純利益は約1兆8300億円で、実にアマゾンの7倍弱もある。したがって、株式市場においてアマゾンは利益規模というより、将来の成長性で評価されているといえる。
アマゾンの成長性を株式市場はどう評価しているのであろうか。株式市場では時価総額を当期純利益で割った指標であるPER(株価収益率)を使用し、たとえば将来に予想されている当期純利益の何倍の時価総額がついているかで利益成長性を見極める。
通常は将来の当期純利益の予想値を使用するのだが、ここでは簡便的に実績値を使用してみよう。先ほど例に出したトヨタと比較してみよう。上記の数値を利用すれば、アマゾンのPERは229倍、一方トヨタは13倍となる。PERは現時点での利益規模がそれほどではなくとも将来にかけて利益が拡大すると期待されるケースでは高い数値となる。アマゾンとトヨタのPERを比較するとその数値の違いから投資家の将来の利益成長に関する期待値の違いが見て取れるだろう。
次に、アマゾンがどの事業で収益を得ているのかを見ていくことにしよう。下図は、アマゾンの四半期別の売上高を示したものだ。2016年で見ると、売上高の約60%が北米における小売業、30%強が海外における小売業が占める。つまり、アマゾンは売上高の9割を小売業で稼いでいるため、季節性がはっきりと見える。毎年、クリスマスシーズンを含む第4四半期(グラフでは「Q4」と略)に売上高が集中する。
しかし、残り10%弱は先ほど少し触れたAWSが占めており、年々その比率は増えている。大規模ECサイトを構築するアマゾンは、そのノウハウを生かしてこのIT分野の事業にいち早く進出した。