日本の電機産業は、ありし日の輝きを失っている。その業績不振の原因を探るシリーズの第1弾として前回、シャープを取り上げた(『シャープ凋落への岐路は、あの戦略転換だった』)。続く今回は、不正会計問題で揺れた東芝に焦点を当てる。
もう1年以上前になるが、2015年7月21日、東芝の会計問題に関して第三者委員会による調査結果が発表され、08年度から14年度第3四半期までの決算における利益修正が示された(08年度については有価証券報告書の09年度の比較対象年度として修正の対象となっている)。同調査結果により、東芝の当該期間の累計修正額は営業利益で1518億円の下方修正が必要となった。
利益操作は株式市場において適切な判断を妨げることとなり、決して許されるものではない。なぜ東芝が不正会計処理に手を染めたのか、その動機について様々な要因が指摘されているが、今回改めて分析してみたところ、東芝の戦略として導き出された「事業ポートフォリオ」に根本的な原因があると思われることがわかった。それは同時に、日本の企業・産業を取り巻くマクロ的背景とも関係している。
今回は東芝の経営状況と不正会計の動機について、会計操作をしにくいとされている「キャッシュフロー」(08年度以降は修正後の数値)に基づいて分析した。また、その分析結果をもとに、俯瞰した視点から日本の産業構造が抱える問題点についても考えていきたい。
東芝のキャッシュフローに見る経営者の「色」
はじめに、東芝の経営状況(連結ベース)について見てみよう。対象期間は2000年度から2015年度までとした。2000年度は、岡村正元社長が就任した年である。このうち、第三者委員会の調査対象期間は09年度から14年度第3四半期までとなっている。09年度は佐々木則夫元社長が就任した年である。第三者委員会の調査期間は基本的には佐々木元社長の就任以降となっている。
第三者委員会の調査対象期間に対し、なぜ本稿でより長い時間軸を設定したかといえば、第三者委員会が指摘した会計問題はさておき、経営とその意思決定は連続しているからだ。分析期間を可能な限り長くとる方が、企業の転換点を見出しやすい。
また、東芝の場合には、原子力発電所といった大型プラントの建設や巨大な先端半導体工場を建設・運営しているため、先代の経営陣の意思決定が後の経営陣の業績に影響を与えることもあるであろう。こうしたことから長期間の分析を試みた。