泉田良輔の「新・産業鳥瞰図」

地図情報の世界的争奪戦が映す「自動車産業のサービス化」 GFリサーチ 泉田良輔氏

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本コラムの『自動運転車狙う「半導体大再編」、日本は出遅れ』と『自動車産業の次の10年、半導体を牛耳るのはインテルかARMか』で、半導体業界で起こっている大再編がすべて次世代自動車の時代を見越した動きであることを述べた。その第3弾として、今回は次世代自動車と「地図情報」をめぐる世界の動向を取り上げたい。

フィンランドのノキアは2015年8月、事業ポートフォリオの戦略的な入れ替えに伴い、地図情報事業である「ヒア(HERE)」を売却すると発表した。売却先は、アウディ、BMW、ダイムラーのドイツ自動車メーカー3社連合によるコンソーシアムだ。

「ヒア」という地図サービスは日本でほとんど知られていないが、欧米では据付型のカーナビシステムで大きな市場シェアを持っているとされている。売却する際の企業価値評価は28億ユーロ(1ユーロ=133円換算で約3700億円)にも及ぶ。

ヒアの事業売却に際して特筆すべきは、自動車メーカー以外の企業が買収に意欲を示していた点だ。配車アプリの米ウーバーテクノロジーズ、米フェイスブック、中国バイドゥーといったネットサービス企業の名が挙がっている。世界的な争奪戦だったといえる。

なぜ、これほどに地図情報サービスへの関心が高いのか。

ヒアが幅広い産業から注目された背景には、「これまで以上に自動車のネットワーク化が進む」という流れがある。その延長線上には、地図情報がカーナビを超えて様々なネットサービスと結びつく可能性があり、自動運転技術にとっても不可欠な要素となっているからだ。

地図情報には、そうした新サービスを生み出す戦略的価値がある。海外に完成車を輸出・販売する日本の自動車メーカーにとっても、事業戦略上、重要なM&A案件であったはず。

だが不思議なことに、ヒアのM&Aに関して日本企業の名前はまったく出てこなかった。今後日本の完成車メーカーなどと前出のコンソーシアムとの間で提携の話などが出てくる可能性もあるが、自動車産業のサービス化の流れについて日本企業がどう考えているのか、一抹の不安をおぼえる成り行きである。

ヒアの収益性は低いが、大きなシェアが魅力

はじめに、世界の地図情報産業の動向について見ていこう。

ヒアの2014年の売上高は9億7100万ユーロ(1ユーロ=133円換算で約1290億円)、営業利益は3100万ユーロである。営業利益率は直近で10%近くあるが、平均すると3%程度なので、現時点で収益性の高い事業ではない。

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