半導体業界で世界的な再編が起こっていることは、前回の『自動運転車狙う「半導体大再編」、日本は出遅れ』で述べた。そこでは主に自動車産業向け半導体メーカーの再編を取り上げたが、今回は半導体の巨人・米インテルと、モバイル機器向けプロセッサーなどで急伸する英ARM(アーム)の2社を中心に、自動車向けマイコンを含めた半導体業界の構造変化について述べていきたい。
両社の狙いは明確だ。いまだほとんど外部ネットワークに接続していない自動車も、いずれインターネット経由でデータセンターとつながり、双方向でデータをやり取りしながら自動運転するようになる。この巨大なシステムを構成するクルマとデータセンターの半導体を両方とも手中に収めようとしている。
これらの動きは、日本の半導体メーカーや完成車メーカーの事業環境にとっても大きな変化である。日本の半導体メーカーがどこに軸足を置くかで、半導体産業のみならず自動車産業の次の10年が決まる可能性がある。
車載マイコン再編の背後にARMの影
昨今、自動車産業向けマイコンメーカーが業界再編を仕掛ける理由の1つは、製品開発のコスト負担がどんどん大きくなり、それなりの企業規模がなければ生き残れなくなっているからだ。
自動車の電装システムは複雑化し、ADAS(先進運転支援システム)やその先にある自動運転技術、さらには移動通信インフラへの接続やクルマをネットワークに接続した後のセキュリティーをいかに担保していくかなど、新規開発すべき技術が目白押し。もう「走る・曲がる・止まる」といった基本機能を満たすだけでは十分でない。
しかも、新技術を自動車に実装していくには、完成車メーカー(自動車業界ではOEMと呼ばれる)に対するマイコンメーカーの継続的な技術サポートが欠かせない。自動車の新機能の安全性を担保するためには、開発段階からマイコンメーカーも関与する必要がある。その人件費負担も決して軽くない。
そこに新たなコスト負担要因が生じた。今回のテーマにもかかわる、ARMのプロセッサー知的財産(IP)である。ARMはその市場シェアの高さから、このライセンス料やロイヤルティー料の値上げをすることも可能であり、これが業界再編を後押しする背景とも考えられる。