アベノミクスによる成長戦略の議論を見ていると、日本の競争力を高めるために「どの産業にリソース(資金と人材)を配分すべきか」という議論が欠けているか、不十分である。広くあまねく税金を投下しても十分な投資効果は期待できないし、育成対象の産業に競争優位がないのなら、なおさらである。ここで改めて「競争優位のある日本の産業」を見極め、その産業に合った育成支援策を検討すべきではないのか。
2014年1月に施行された産業競争力強化法では、起業に対するファイナンス手段の多様化や新規参入を施す制度については整備された。しかし、具体的にどの産業の競争力を強化するかはなかなか見えてこない。活発な起業を促す環境を整えることは重要だが、それはどの産業に競争優位があるのかを見極めたうえでの話である。「起業ありき」ではないはずだ。
なぜ「競争力がない分野」を支援する?
また、2014年6月に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2014で、改革の10の焦点として挙げられているのは、雇用の流動化、女性や外国人の活用、コーポレートガバナンスの強化など、こちらも制度整備が中心だ。そもそも雇用の流動化といっても、雇用を吸収できる成長産業がなければ流動化の意味がない。
産業育成の対象としては、農業、医療、電力、金融、観光などの国内産業を中心に取り上げている。しかし、今後、国内で必ず改善する余地のある産業ではあるが、海外の競合企業に対して、競争優位のある分野であるようには思えない。
たとえば「日本再興戦略」改訂2014では、国際展開戦略として、海外でのインフラシステムの受注や放送コンテンツ関連売上高を伸ばそうとしているが、残念ながら日本のインフラとコンテンツ産業に国際的な競争優位はない。インフラを構成するハードウエアやコンテンツそのものには競争優位があるが、トータルの事業モデルとして見た時に、日本企業の競争優位を説明するのは難しい。
インフラの輸出に関しては、大型かつ長期のプロジェクトを支える資金調達が決め手になることが多い。また、最近では「インフラシステムを運用する際のセキュリティーをいかに担保できるか」という点が受注のポイントになっている。インフラシステムがハッキングされると社会へのダメージが大きいためだ。万一ハッキングされた場合の対応力も問われる。つまり、ICT(情報通信技術)領域での競争優位をしっかり説明できなければ、インフラの輸出は難しい。日本企業は、ハードウエアでの競争優位を証明できても、ICTを裏付けとするシステムの競争優位を示せるのか、疑問を感じる。
コンテンツの輸出についても、コンテンツを収益化するためのプラットフォームを保有することがポイントである(※)。コンテンツ製作自体はそれほど収益率が高くなく、安定してもいないので、成長戦略と呼ぶには心もとない。
(※)詳しくは『ディズニー映画の強さ、クールジャパン戦略の脆弱さ』を参照。
残念ながら、「日本再興戦略」改訂2014では、これまでグローバルで競争優位を確立してきた輸出産業についての施策が少ない。日本の輸出産業は既に競争優位を確立しているため、もう政府の支援は必要ないと考えたのかどうかわからないが、弱い産業を強くするよりも、強い産業をさらに強くする方が、日本経済の潜在力を引き出せるのではないだろうか。
今回は業績データに基づき、日本の主要産業における競争優位の変化と、今後の日本企業の「生き方(生存確率を高める経営)」について考えていきたい。その論点が明確になれば、日本の成長戦略はもっと的を射た効果的なものになるはずだ。
リーマンショック前の水準に回復したのは自動車産業だけ
まずは、日本を代表する自動車産業について見てみよう。下のグラフは、自動車メーカー大手3社(トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業)の売上高と当期純利益をそれぞれ合算し、1985年度の数値を100として指数化したものである。