黒田日銀総裁による金融緩和により、2012年後半を境に円安トレンドとなった。結果、自動車メーカーをはじめとする輸出企業はその恩恵を受け、2012年度と比べ2014年度の業績は改善している。ということは、円安により国内の「製造現場」も活気を取り戻しているのか。
今回は貿易統計を見ながら、日本国内の製造業の実態を探ってみたい。結論を先にいえば、日本企業のモノづくりは円安で喜ぶどころではなく、大きな節目を迎えているとみるべきだ。これから進展するであろう「輸出・製造モデルの変化」に目を向けてほしい。
貿易収支に明らかな変調
次のグラフは、1957年1月から2014年10月までの輸出入金額と貿易収支を月次で示したものである。足元では恒常的に輸入額が輸出額を上回り、貿易赤字が28カ月間連続で続いていることがわかる。この赤字は単なる景気循環によるものではなく、明らかに産業構造の変化を伴ったトレンドとして見るべきであろう。
過去を振り返ると、1973年と79年のオイルショックの際に、貿易赤字が続いたことがある。しかし、今回の貿易赤字の方がはるかに長期間に及ぶ。最大の注目点は、リーマンショック前と現在を比べたとき、輸入額は同水準まで上昇しているのに対し、輸出額が十分に戻りきっていないことである(※)。2度のオイルショックの後は、輸出が輸入を上回る構造だった。
(※)昨今の貿易赤字の原因については、エネルギー輸入の問題についても触れておく必要がある。東日本大震災以降、日本全国の原子力発電所が停止する中で、海外から輸入する化石燃料が急増した。代表例は液化天然ガスで、輸入額は東日本大震災のあった2010年度の3.5兆円から2013年度の7兆円に倍増した。2010年度の貿易黒字額5.3兆円から2013年度の貿易赤字額13.8兆円へ、貿易収支の悪化分である19.1兆円のうち、約3.5兆円は天然ガスの輸入増によるものである。